面白い会社説明会

 会社説明会の話。会社説明会とは何もわからぬ就活生が企業の自慰的なプレゼンを聞かされる通過儀礼である。学生の自己満足と人事に直接会えることくらいしかメリットが思い浮かばない。会社のことと知ってくださいと言われても、大したことは言わないし、経営状況や事業内容(もっといえば不祥事とか労働環境)については(この段階では)Webのほうがたいがい詳しい。そんな説明会だけど、たまに面白いものもある。それを紹介しよう。

 とあるビルにて、エレベーターを降りて廊下へ向かうと、受付の細いお兄さんが笑顔で応対をしてくれた。こちらも笑顔と会釈で対応し、部屋の中へと向かう。そこにはありきたりの長机と椅子。今日も普通だな!そんな気持ちで座っていた。説明が始まる。

「本日の司会・進行を務めますS社のAです。よろしくお願いします。」

はきはきとした声で案内が始まり、最初は怪しい会社だと思っていたせいか、反面よい印象を受けた。

 最初に行ったのはアイスブレイク。チームになって問題を解くというワークである。難しいものではなく、ヒラメキやパズルのようなものだ。それがまたなかなかに手がこんでいて面白い。どうやらそういうものが得意な会社らしい。チームで分担して問題を解くと、お互い気軽に話せるようになっていた。アイスブレイク様様である。さらに好印象を持つ。

 その後話は社長の自分語りに移り(面白い人だったが中身はあまり覚えていない)、面白い会社だな。良い会社だなと思い少し前のめりになりながら話を聞いていると、学生からの社長に対する質疑の時間になった。ある学生が質問をする。

離職率はどのくらいですか?」

会社の不利になってしまうような回答を求めるのは、スゴクシツレイであると就活バイブルにも書いてある。会社には言えることと言えないことがある。そんな質問はナンセンスだ。そう考えふと司会のAを見ると、なぜだかすこしにやついている。社長が答える。

離職率ね~中略~そんなに高くはないよ。」

すごく丁寧に答えてくれた。喋り方からして嘘をついているようには見えないし、すごく楽しそうな雰囲気がする。隠れホワイト企業ってやつかな?胸が高鳴る気分になった。

「…あ、そういえばA!おまえも辞めてるやんけ!」

 

 

………は?

 

「あ、実は私ちょっと前に退職してて、元社員なんですけど、なんかここにいます。笑」

 

……うん?

 

 

そこから何分か考えたが、結局どういう状態なのかわからなかった。わかったのはとりあえずちゃんとお給料は出てるらしいってことくらい。「社外の人間(しかも辞めたやつ)が会社説明をする会社ってあるんだ~。すごく面白いな~。」と思いながら帰路についた。そのころには胸にたぎる気持ちはとうに冷めていた。